辰吉の罪が晴れていることを初めから知っていて言わなかった』
「知っているよ」
reenex
「そうだよ」
『あっしは初めから知っていた』
「言わなかったのは何か訳があったのだろう」
『可愛い子には旅をさせろ…と思った』
「ははは、俺は可愛いからな、仕方がないよ」
『そんな意味ではないけれど』
「いいよ、いいよ、それよりここで旅を終えてしまったら、関の弥太八さん捜しができねぇな」
『案外、関へ戻っているかも知れない』
「うん、戻っていなくても、何か手掛かりがあるかも知れない」
『例えば?』
「親しいダチ公に、何か漏らして旅に出たとか」
『そうだな、旅を終える前に、伊勢の国へ行ってみるか』
「それがいい、それがいい」
『お前は、学芸会のその他村人達か』
reenex
「この時代に、学芸会なんてねぇよ」
暫く歩くと、今まで無風だったのに、突然一陣の向かい風が吹いた。草津方面から歩いてきた旅人が、紐を結んでいなかった所為か、三度笠が風で飛ばされ辰吉の足元で止まった。辰吉が拾い上げて走ってきた旅人に渡してやると、旅人は親しげに話しかけてきた。
「兄さん、ありがとよ いきなりの風だから驚いてしまいやしたぜ」
「ほんとうですね、目に砂でも入るといけない、ここらでひと休みして行きます」
「あっしも、そうします」
二人は道の端に腰を下ろし、話をしていて気が付いたが、男の右耳の下に豆粒ほどの黒痣があった。
「新さん、この人耳の下に痣があります」
『辰吉、お前目が悪いのか、あれは蝿ですぜ』
「あっ、ほんとうだ、飛んでいった」
reenex
『それに弥太八さんの痣は、左耳の下です』
「あっ、そうだった」